0人が本棚に入れています
本棚に追加
あぁ、……したい。
私は、それを前にして……したい衝動に駆られる。しかし、僅かに残った私の理性が、それを抑え込む。
ゴクリと喉が鳴り、白い柔肌に手が伸びていく。しかし、もう一方の手がその動きを制止させる。
「ダメだ。もう少し待てば……。この衝動も」
呪文のように何度もその言葉を呟き、自分に言い聞かせる。だけど、衝動は治まるどころか、強まるばかりだ。
私の衝動を駆り立てるのは、痒みに似たこそばゆい疼き。じわりと全身に広がる感覚に、苛立ちも感じることもある。しかし、それは自分の中に血が流れ、命があることの証明でもある。……そう、この衝動は私独特のものではない。人間なら誰でも一度は感じたことのある衝動だ。
だけど、大半の人間はその衝動を理性で抑えている。その行為が自らを傷つける愚かな行為だと知っているからだ。私もそれは理解している。しかし、私はとても心の弱い人間だ。己に湧き上がる欲望に、いとも簡単に流されてしまう。
あぁ、また手が伸びていく。ギリギリまで抑えていた衝動はふとした瞬間に途切れ、本能に従順な動きをしてしまう。白い肌に手が触れ、指先に力が入る。そして、柔らかな肌に爪をたてる。抑制をなくし強まる衝動に呼吸が乱れ、心音も乱れていく。
突き立てた爪の先に固いものが触れ、指先に温かな液体が触れる。
「あぁ……」
得も言えぬ解放感に思わず吐息が洩れるが、同時にじわりと滲み出てくる赤い色に激しい後悔も襲い来る。
「あー……、またやっちゃった……」
私は腕の傷を見て、ため息を吐く。
「もう少し待てば治ってたのに」
治まった衝動を覆い尽くす後悔に苛まれる。私は独り言のように自分の弱さに文句を言いながら、血が滲む腕にティッシュをあてた。
「なんで、かさぶたって剥がしたくなるんだろね~」
最初のコメントを投稿しよう!