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居間に上がると、ソファで毛布にくるまって横になっている灯里の姿が見えた。最近気に入っているというおさげの髪型も戻さずに寝てしまっている。毛布がずれていて肩の辺りが少し寒そうだ。一応エアコンの暖房はついているが、風邪でも引かれては心配だ。こっそりかけ直してやろうとして、冬吾は手を伸ばした――
「誰!?」
灯里は突然叫び、ソファの隅に寄る。
「お、俺だよ……」
冬吾は両手でホールドアップして言う。灯里はすぐにほっとしたような顔をして、
「なーんだ、お兄ちゃんかぁ。びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだ。っていうか、起きてたのかよ」
「たった今ね。……でも変だなぁ。お兄ちゃんなら近づいてきただけでわかるのに」
灯里は普通より感覚が鋭いところがあるから、冗談で言っているわけではないのだろう。
「単に寝起きだからわかんなかっただけだろ?」
「それもあるかもだけど……最近のお兄ちゃんって、お兄ちゃんじゃないみたいな感じがするんだよね。たまに」
「……なんだそりゃ、傷つくぞ」
「あ、ごめんごめん! もちろんわかってるよー。お兄ちゃんはちゃんと、私のお兄ちゃんだもん」
……灯里の言葉に漠然とした不安感を覚えた。家の中では、以前と変わりない自分でいるつもりなのに。ナイツに入ってからの変化……のようなものが、灯里にはわかってしまうのだろうか。だとすれば、いずれは――……
「そうだ、聞いて聞いて! 今日は夕莉さんとお買い物に行ってね――」
灯里がなにやら楽しそうに話し出す。冬吾は、今考えようとしていたことを思考の外側に追いやった。それを一度考えてしまうと、なにか恐ろしい結末に辿り着いてしまいそうな気がしたから。
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