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「……はい」
『久しぶりだな。戌井冬吾』
「っ……!」
緊張で冬吾は背筋を強張らせた。そうか、番号に覚えがあって当然だ。この女は前に一度、電話をかけてきている。
「何の用だ……神楽」
神楽――伏王会差配筆頭の肩書きを持ち、現在の冬吾を取り巻く状況の元凶。彼女がこうして電話をかけてきたからには、きっと何かある。警戒心を張り詰めさせておくくらいでいないと……。
『久々に話すというのに、随分そっけないじゃないか。愛嬌がない奴は嫌われるぞ?』
「あんたに媚びを売る必要性を感じないんでね」
『ははっ! 嫌われたものだな。まぁいい。どちらにせよ、今の君は私には刃向かえない。そうだろう? たった一人の家族は大切にせねばなるまい?』
「この……!」
電話を持つ手に思わず力がこもる。……ダメだ。冷静さを失ったら、相手のペースに飲み込まれてしまう。冬吾は大きく呼吸して、気持ちを落ち着ける。
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