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半壊したボロボロの病院。その正面に降り立った桐弥は病院内にいくつかの魔力を感知し砕け散ったガラス片を踏みつけて中に入る。
音や魔力に気づき、病院内にいた少年少女たちは立ち上がった。誰よりも早く立ち上がり桐弥へ駆け出したのは妹の朱美だった。
「兄さんっ!!」
胸に飛び込んできた妹の頭に手を置き微笑む桐弥。胸元辺りを掴む朱美の手は小刻みに震えていた。
「よかった…無事で、本当によかった…!」
「うん。大丈夫、全部終わったよ。だから安心して」
「うんっ…うんっ…!」
赤い頭をポンポンと優しく叩き、遅れて歩み寄ってきた面子にも顔を向ける。
「お疲れ様、みんな無事でよかった。全部終わったから安心していいよ」
「桐弥さんもお疲れ様です」
田上が頭を下げ、他のみんなも頭を下げた。勇者パーティーとして魔界に赴いていた英雄への労う言葉は忘れない。桐弥からすればそれがちょっぴりくすぐったいのだが。
「桐弥さん」
田上が名を呼ぶ。真剣な声音で。
桐弥は田上に目を向け、田上の後方にある壁に取り付けられたテレビが自然に視界に入った。そこには魔界の映像がまだ映し出されていて、桐弥はゆっくりと目を細める。
「桐弥さん、一つ聞きたいんすけど」
「わかってるよ田上くん」
桐弥は僅かに口角を上げながら、しかし表情に陽気や愉快といった感情は浮かべずに続ける。
「一緒に帰ってきたから、外にいるよ」
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