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暗い、冷たい、どことも知れない空間。
微かに道を照らす街灯だけを頼りに、終わりのない道を、私は一人駆けていた。
「だ、誰か……!」
息をすることもままならない状態で、できる限り大きく叫ぶ。
しかし、その声は虚空に消え、誰にも届くことはない。
焼けるように痛む喉、悲鳴を上げる足、鉛のように重い体……一歩踏み出すたびに、残りわずかな体力が削られていく。
――――なんで、こんなことに……!
そう思い耳を澄ませる。聞こえるのは私の不規則な呼吸音と、無駄に強い疲れ切った足音。―――そして、だんだんと近づいてくる軽快だが深い闇をたたえた、地獄へ続く音。その音の主は、まるで逃げ惑う私の姿を楽しむかのように、少しずつ、距離を詰めていく。
振り返っちゃいけない。
すぐ後ろににやりと恐ろしい笑みを浮かべた悪魔がいるような気がして、頭(かぶり)を振った。
考えたくないはずなのに、瞬きをすると嫌でも情景が脳裏に浮かぶ。肌が粟立ち、冷や汗が止まらない。
――――怖い、怖いよ…… 誰か、助けて……タスケテ……!
非力な私は、この悪夢が早く醒めるようにとただただ祈った。
*
どれくらい走っただろうか。頭がボーっとして、足元はふらふらと覚束無い。重い体に鞭打って、また一つ角を曲る。
……数分のようにも、数時間にも思える終わりの見えない鬼ごっこ。早く終われ、そうは思っても、そんな簡単に終わるわけがない。……はずだった。
「嘘……行き止まり……?」
目の前に見えるのは下り階段と数メートル先に立ちはだかる、乗り越えることができないことが容易にわかる高さの門。
ゲームは、最悪の展開をもって急に終わりを告げた。
このままだと捕まる。しかし、逃げ場はない。
走らなければいけない。しかし、足は恐怖にすくみ、一ミリも動かない。
どうしよう、どうすればいい!? わからない!
考えても考えても、答えは出てこない。疲労と混乱で気がおかしくなりそうだ。もし狂うことが出来るならば、意識を手放すことが出来るのならば、どんなにか楽だろうか。しかし、私の体はそんなに都合の良い作りにはなっていないようで、脳は考えることをやめようとしない。
このままでは追いつかれる。その時は後数十秒後、いや、数秒後かもしれない。先ほどのように耳を澄ませ、悪魔の足音を聞こうとして―――気が付いた。
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