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記憶が飛んだ……?
「……治るのかな?」
今の自分がどんな環境で過ごしていたのかはわからない。しかし、今の私には今の私の交友関係があるはずだ。高校時代の私と同じなはずがない。もしこれからずっと三年間の記憶が戻らないのだとしたら、きっと上手くふるまうことはできないだろう。そう思うと、どうしようもなく不安になった。いったいどうすればよいのだろうか。
さまざまなことを考えが、そのたびに不安なことが増えていって、どうすればいいのかわからなくなる。
「……とりあえず、先生とご両親を呼ぼう。僕はたまたま君に合いにきて、その帰りに君の叫び声を聴いただけで、ほかの人は君が起きたことを知らないから。」
彼はそういって、にこりと私に微笑んだ。
私はまだ混乱していたが、とりあえずこくりと頷いた。
すると彼は私の心情を察したのか、
「大丈夫。不安だと思うけど、僕がついててあげるから。きっと、すぐに思い出せるよ。」
と、肩に手を当てながら優しく語りかけ、部屋を出て行った。
それだけの動作のはずなのに、何故か心が軽くなったような気がした。
* *
私が目覚めてから―――お医者さんに記憶が戻る保証はないといわれた日から―――三日がたち、退院することとなった。いろいろな検査を受けたが、不幸中の幸いで、頭を強く打ったのに記憶以外には全く異常はみられなかった。
その三日間で、いろいろなことを両親や菖君から聞かせえてもらった。私はいま地方の大学に通っており、親元を離れて一人暮らししていること、菖君と同じ大学の同じ学部に通っていること、塾の講師のバイトをしていること……。大体の境遇は理解できたが、それらはすべて他人が過ごした時間をきいたようで、全く現実味がわいてこなかった。
* *
「……で、とりあえず大学に来てみたけれど……授業まっっったくわかんない」
「そりゃそうだよね」
中身は高校二年生で大学受験の記憶すら残っていない。高校で習った知識すらまともに復習していないし、大学の専門的な知識なんて呪文を通り越して子守唄に聞こえる。何語なのさ、あれ……。まあ、そんな状況で授業受けたらこうなるわけだ。
私は直射日光に当てられ続けどろりととけたアイスのように、机にだらしなく伏せた。
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