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「僕の家で勉強して、晩御飯を食べて、そのあと君の家まで送り届けるっていうのでいい?」
なるほど、その手があったか。それなら部屋で料理して部屋が爆発したり、ゴミがたまりすぎて大惨事になることはなさそうだ。変な心配もしなくて済むし。
「うん、了解」
「じゃあ、いこうか。何とか処置も完了したし」
彼は鼻にティッシュをつめてから、そういった。心なしかそのあたりが血で少し赤くなっているような気がする。
私は彼の顔に手を伸ばす。
「顔ふいたほうがいいかもよ? 血、ついて――――」
「あ、綺愛じゃん。久しぶりだなー! ここ最近大学来てなかったけど、何かあったのか?」
しかし、その手が届くより前に誰かに名前を呼ばれ、手を止めてそちらを向いた。
そこには、髪を茶色に染めている少し背の高い男性がいた。
今度は声にも全く聴き覚えがない。
「……菖君、あの人だれ?」
私はぼそりときいた。彼は私にニコリと笑いかけるが、答はない。
「あれ、菖も一緒なのか? お前ら、仲直りしたんだ」
「仲直り……?」
一体、何のことだろうか。
「悪いけど、綺愛今記憶が混乱してるらしくてさ、しばらくそっとしといてもらってもいいかな?」
菖君はそういうと、私の手を引いてその場から立ち去った。
いきなりどうしたの―――そういおうとしたけれど、彼のとげのある雰囲気におされて、言葉を飲み込んだ。
その男性とすれ違う時、聞き間違いだと思うのだが、
『余計なこと言わないでよ』
と、彼が言った気がした。
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