花屋での出会い

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それでも、ひとたび佳音がこの商店街に姿を現すと、皆はその姿を追うように視線を奪われる。ニコリと微笑みを見せるだけで、男女は関係なくその目は佳音の笑顔に釘付けになった。 質素な生活をして、着飾ったりもしていない。それが却って、佳音の透き通るような可憐さを強調させ、思わず手を差し伸べたくなる…。 普段は工房に籠っている佳音が、時折こうやって現れることを、商店街の皆は心待ちにしていた。 そして、ここに来たら、佳音が必ず立ち寄るところがある。 ごく普通の小さな花屋。佳音はいつもここで、時間を忘れて色んな花々を見つめ続けた。 花を買わなくても、店主は文句も言わない。逆に、花に見入る佳音がいてくれると、店も華やいで客の入りもよくなるのだ。 …ちょうど今、スーツで身を固めたスラリとした若い男が店に入ってきたように。 「……こんばんは」 何気なく入ってきた男は一通り店内を見渡した後、何気なく佳音の横に立ち、声をかけた。 知り合いに言われたようなその言い方に、佳音は不意を衝かれて言葉もなくその男を見上げた。 その男には見覚えがあった。 今も懸命に手掛けているウェディングドレス。それを着る幸世の結婚相手…。 「……古川さん……」 確か、そんな名前だった。
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