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すると、和寿の方が気を遣ってくれたのか、言葉を続けてくれた。
「…お花、お好きなんですね。工房の入口にもたくさん花が咲いてましたね」
「…はい…」
仕事で関わりのある人だから、もう少し気の利いた受け答えをしたかったが、佳音には一言返事をするだけで精一杯だった。
花を見て、ホッと心が和んで癒されるはずが、緊張して落ち着かなくなる。目に映っているはずの花々も、佳音の意識の中には入って来なくなった。
「…この花たちも、あなたの作るウェディングドレスみたいですね…」
佳音の隣に立って、同じように花を眺めていた和寿が、その心に過ったことを言葉にする。
佳音はそれを聞いて、大きな瞳をさらに見開いて、花から和寿へと視線を移した。
どうして和寿はそう思ったのだろう?
それは、いつも佳音が花に見入る時に、考えていることだった。
「…花からいつも、ドレスを作る時のインスピレーションをもらうんです」
気付いたら、それまでの緊張を忘れて、佳音の口は勝手にそう動いていた。
自分と同じ感覚を共有してくれる人がいる…。そのことが、少し嬉しかった。
「ご自分で、ドレスをデザインなさることもあるんですか?」
佳音からいい反応があったことに気を良くして、和寿が質問してくる。
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