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この前の幸世との打ち合わせでは、彼女がデザインほとんどを決めていたから、和寿の疑問も当然だろう。
「ごくまれにですけど、『似合うドレスをデザインして作ってほしい』という依頼もあります」
そう言いながら佳音が表情を和ませると、和寿も納得したように頷いた。
「こうやってインスピレーションを受けて、それを布で表現して、…あんなに可憐なドレスを作りあげるのだから、本当にすごいことだと思います」
和寿の言ってることはお世辞だとは思ったが、佳音は嬉しいような何とも言えないくすぐったい気持ちになった。
「今はそれよりも、幸世さんの思い描くドレスにどんな風に近づけていくか、そればかり考えていますけど」
佳音がそう言うのを聞いて、和寿はフッと顔を緩め、肩をすくめる。
「あの人は、ワガママだからな」
「いろいろ要求して下さる方が、作り甲斐があります。今日も没頭していて、気づいたら夜になっていました」
ドレス作りのことだと、佳音は自分でも思ってもみないくらい、いつになく饒舌になった。
「…本当に、ドレスを作るのがお好きなんですね…」
しみじみとそう言ってくれる和寿の表情が、いっそう優しげになって微笑んだ。
その笑顔を見た途端、佳音は胸がざわついて、ここでこんな風に和寿と話をしていることが、何だかいけないことのように感じてしまう。
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