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「じゃあ、また放課後にね!」
といって背を向け、私の返事も待たずに席に戻ってしまった。…少々強引だが、嫌いではない。すると、間もなく先生がいらっしゃって、いつも通り、何の変哲もない授業が始まる。まだ、話していたかった、などという自分らしくない考えは、日直の号令と生徒の喧騒にかき消された。
* *
「「「さようならーー」」」
生徒の気だるげな号令とともに、学校が終わる。私は生徒の会話に聞き耳を立て、面白いことがないか、と思うが、会話の内容はいつも変わらない。アイドルとか、テレビとか、明日の予定。まぁ、それがいわゆる普通なのだろうが。
「やぁ、また考え事かい?」
顔を上げると、そこには久坂部さんがいた。どうやら、約束通り来てくれたらしい。
思わず口角があがりそうになる謎の感覚を感じつつ、私は
「なんでもない。」
と答えた。その問題は、今解決されたからだ。私は考察で得た新たな疑問を彼女にぶつけるべく、口を開く。
「なぁ、久坂部さ―――」
「聖―。ちょっと手伝ってもらっていい?」
その瞬間、重そうな資料を持った女子生徒が彼女に助けを求めた。あれは、きょう提出の英語の宿題だろうか?
「はーい、ちょっと待ってね。…ごめん、川上さん。少し時間がかかりそうだから、今日は話せなさそうだ。」
彼女はそういうと、申し訳なさそうに軽く頭を下げた。何となく淋しいかもしれない。どうしてだろう?
「…いや、待っている。どうせ用事などない。」
私はその理由が知りたくなって、彼女にそう答えた。彼女は私に笑いかけると、
「ありがとう。」
と、一言言ってかけて行った。
…彼女に会ってから、不思議なことばかりおこる。なぜか、言葉では説明できない思いが起こるのだ。物質として存在しない何かが、私の中にあるのだ。理論では証明できない、なにか。さまざまな思いがまじわるこの感情はなんなのだろうか。彼女を目で追いかけてしまう、彼女と話したいと思う…こんなこと、今までなかったのだが。私は自分の頭の中から、一番近い言葉を探す。興味?いや、興味に寂しさは伴わない。羨望?いや、それだけではない。じゃあ…。
「ごめん、待たせたね。」
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