妄想少女の夢講座

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「ごめんね、遅くなって。今日は、新入部員を連れてきたんだ。」 「新入部員!?」 私は王子のその一言をきいて、すぐ顔を上げる。これは、神様が私に使わせてくれた運命に違いない。そう、私の小説が書けなくなっていたのも、この素敵な出会いを小説にするためなのだ。 「きっと、気に入ると思うよ。どうぞ。」  王子がそういうと、廊下から足音が聞こえた。なんだか、ドキドキしてしまう。どんな人だろう?紳士的な男性? それとも、純情な美少女? 考えるだけでわくわくする。初めが肝心だから、変な人だと思われないようにしないと。  私は目をつむり、深呼吸をしてから、だらしなくにやけた顔を引き締め、 「始めまして、愛川心(あいかわ こころ)、一年三組です!よろしくお願いします。」 少し上ずった声でそういった。 どんなに表情を引き締めようとしても、声までは操れないらしい。でも、これくらいなら大丈夫…だよね。 しかし、そんな私に返事をした声は、私とは対照的な冷静で、淡々としたものだった。でも、けして冷たいわけではない。観察するような、不思議な言い方。 「はじめまして。二年六組川上智怜(かわかみ ちさと)だ。」  私は、相手がどんな人か期待に胸をふくらましつつ、声の主を見た。私はそんな智怜先輩をみて、思わずつぶやいてしまった。 「なんで…」 だって、あまりにも想像とちがいすぎるのだ。私は自分の想像力を恨んだ。  智怜先輩は、そんな私を見ても何を考えてるかわからない無表情だ。 王子だけが、いつもと変わらぬ表情で、私たちを見ている。 「なんで…こんなかわいい人にもっと早くあわせてくれなかったんですか!想像よりずっと素敵ですし!うわぁぁ…これから楽しくなりそうです!」  そう、現実は時に想像をはるかに上回る。自身の力のなさに少々落ち込むが、今はそんな場合ではない。 私は智怜先輩の手を取り、そういった。心なしか、少々驚いているように見える。
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