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少し低めの身長に、艶やかな黒髪。ミステリアスな瞳が眼鏡の奥から私を見つめている。小さいのに芯の通った声が、彼女の冷静でしっかりとした意見のある人柄を表している。
私が食い入るように智怜先輩を見ていると、
「やっぱり。」
と、王子は笑いながらいった。相変わらずかっこいい。
「なら、何で会わせてくれなかったんです?」
私は、そんな王子の…部長である久坂部聖(くさかべ ひじり)先輩のセリフに少しだけむっとした。智怜先輩を一目見ただけで、さまざまなアイディアが思い浮かぶ。できることなら、夏休み前に会いたかった。
そういうと、彼は私の手を取り、淋しげに微笑んだ。
「だって、そんなことをしたら、君の眼には彼女しか映らないだろう?そう思うと、淋しくてね。」
か…かわいい…!
いつものかっこいい余裕のある姿とのギャップに思わずきゅんとしてしまう。
「そんなことないですよ!王子がいつでも私の一番なんですから!」
私はそういって、一人身悶える。相変わらずの甘いセリフに、智怜先輩がいるにもかかわらず周りから見たら変な反応をしてしまう。
「ありがとう、心くん。」
そういって頭をなでる手は、とても心地よい。
って、この行動は誤解を生みかねないのでは!?
ばっと智怜先輩のほうを見ると、彼女は先ほどと変わらぬ無表情でこちらを見ていた。…さすがに考えすぎか。そうだよね、抱き着いただけだもん。恋人同士とか、そんな誤解なんて生まれるわけがない。だって王子は…
「…。聖さんは…男の人だったのか?」
女の人だし…って
「いや、僕は女だよ?」
「王子は女性ですよ!?」
考えてもいなかった方向の問いかけに、思わず声を張り上げてしまう。
まさか、性別のほうに疑問がいくとは。クラスメイトだし、プールの更衣室などで一緒になったこともあるはずなのに…。
同性カップルかと言われるかと思った。最近はパートナーシップ法とかいろいろあるし? …それはそれでうれしいけど。
「いや、王子と言っていたのでな。王子とは、男性のことだろう?」
確かに私の呼び方が悪かったよね…。その上、王子はかなり中性的で、どちらと言われても納得できるもの。
「私の中の王子とは、仕草もかっこよく、優しいかたのことです。例え王子が女性であっても、関係ないんです。」
そう、私にとっては聖先輩こそ理想の王子様なのだ。
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