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「え?」
予想外の回答に、私は驚いた。真面目だ、と言っていたのに、よい表現だなんて。皆は本当の意味を考えることすら満足にできていなかったし。
「本当ですか?」
私はうれしいけれど、何となくその言葉を怪しむ。すると、それを察したかのように
「本当だ。きちんと意味もわかっていっている。」
と、智怜先輩は、会話部分を読み始めた。意訳付きで。
「月がきれいですね。」(あなたが好きです)
『でも、クレーターばかりで、近くで見ると全然綺麗じゃないわ。』(本当の私は、あなたが思っているほどきれいではないわよ?)
「それらも含めて、私は月が好きだ。月の光は、いつも優しく照らしてくれる。」(あなたの欠点も含めて愛しています。貴女は、いつも優しく、僕を照らしてくれるから。)
『でも、太陽がないと、月はかがやけないわ。』(誰かがそばにいてくれなければ、私は何もできないわ。)
「太陽は、月のそばにいるものです。その身が、朽ちるまで。」(では、僕が太陽になりましょう。死ぬまで、そばにいます。)
そういうと、先輩はぱたりと本を閉じる。
私は何もいえなくなった。だって…多少の相違はあれど、彼女はほぼ完璧に、私の言いたいことをわかっていたからだ。
「すごい…。」
王子も、そうつぶやいた。王子ですら、すべてはわからなかったのだ。
今までわかってくれたのは、二人だけだった。でも、ここまで正確にわかった人はいない。普通の人は、変わった作品、なんて言って、理解すらしてくれなかったのに。
「すごいのは、この文章を書いたきみだ。私はそれを察したに過ぎない。」
そういって、智怜先輩は私にさらに近づき
「興味深い理想だな。聖君が言ったように、君は面白い人だね。」
そういってかすかに微笑んだ。私は、自分の夢を肯定されたことが、とてもうれしかった。この人は、私のことをわかってくれる。そう思うと、さらにこの人と親しくなりたい、そう思ってしまうのだ。
「ありがとうございます。」
私がそういうと、彼女は私の手を取り、
「これからも、よろしくな。」
といった。
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