その日

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 昼食後、ギシギシと軋む木製デスクに足を乗せて昼寝をしているとドアが開く音がした。 「ナマステ」  明らかに日本人とわかる発音のインド式挨拶にうんざりしながら泰三は薄目を開けた。客だ。仕事がやって来てしまった。時刻は十二時半、昼休みと分かり切った時間にやってくる迷惑な客だ。振り向くと戸口に立っているのはバックパックを背負ったいかにも貧乏そうな、学生らしき青年だ。 「ナマステ」  青年は機嫌よく重ねて言う。泰三は不機嫌を隠しもせず「はい、こんちは」と返す。予約なしの飛び込みだ。日本語の看板を見て懐かしく、つい入ってきてしまったのだろう。泰三の会社は個人ツアーしか取り扱わない高級店だ。貧乏学生に用はない。泰三は両足を机の上に戻すと顎ひげを引き抜きながら呟いた。 「まだ昼休みなんですよねえ」  青年は笑顔で室内をぐるりと見回した。 「あ、じゃあ、待たせてもらいます。どうぞごゆっくり」  押しかけてきてごゆっくりもないもんだ。泰三は呆れたが、ごゆっくり以外には何もするつもりもない。昼休みの残り二時間半、ごゆっくりと昼寝した。
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