その日

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 目を覚ますと部屋の隅、象の置物の横に青年が座り込んで、気持ちよさそうに眠っていた。 「……まだいたのか」  泰三は青年に近寄る。すぐそばまで行っても青年は目を覚まさない。バックパックは肩から下ろされ、少し離れた場所に置いてある。泰三は深い溜め息をついた。こいつはこの店を出た三分後には全財産を失うだろうよ。 「もしもし、お客さん」  声をかけながら青年の肩を揺する。青年はなにごとか呟きながら上機嫌で目を開けた。 「あ、おはようございます」 「おはようじゃないよ、あんた。インドで自分の荷物を腹に抱えておかないなんて、盗んで下さいって言ってるみたいなもんだよ」  青年はにっこり笑う。 「でも、あなたは日本人ですよね」  泰三はむっとして、いっそバックパックを盗んで叩き売ってやればよかったと思う。 「見知らぬ人間を信用するな、って言ってるの。それより、あんた予約してないよね? なんか用?」  青年は不思議そうな表情で小首をかしげた。 「メールで予約したんですけど。神林です」  にこにこ笑う青年に泰三は眉を顰め、パソコンのメーラーをチェックした。確かに予約のメールは入っていた。今日の午前十一時三十分に。  泰三 はため息をつく。こいつは時間にタイトな日本人が来てくれたもんだ。
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