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「じゃあ行ってくるね。暎ちゃんの行きたいところに、ちゃんと連れていってあげてよ。ご飯も食べさせてね。机の上にお金が置いてあるから」
玄関からリビングを覗き込んで言うと、「はいはい、分かったって」と面倒くさそうに返された。
啓ちゃんはいつもそうだ。これが、結婚してもう大分たつ私の旦那さん。
まだ二階ですやすやと寝ている暎人(あきと)の顔を、もう一度見てこようかとパンプスを脱ぎかけて留まる。
昨日は寝るのが遅くなったから、起きてこないだろうとは思ったけれど、何も言わずに出掛けたら、あとで泣かないだろうか。
いや、寂しいのは私の方なのかもしれない。
泊まりでもないんだから一日くらい預けたって大丈夫と自分に言い聞かせる。過保護なのは分かっているけれど、普段ほとんど家にいない啓ちゃんに子どもを預けるのは不安で、一人でたまには出掛けたいと思うくせに、いざ行くとなると心配になってつい口うるさくなってしまうのだ。
暎人だってもう一年生だ。昔は「ママいっちゃだめ」と、駄々を捏ねてしがみついてきたものだけれど、最近ではおもちゃの方を見たままバイバーイと手を振る。
一年前と比べると、寂しがる姿を見せることは少なくなった。
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