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そそくさと傘をカバンに押し込め、啓ちゃんの顔をろくに見ないまま、私は外に飛び出した。
つい動揺してしまったけれど、怪しまれなかっただろうか。
興味のなさそうなことを言っておきながら、案外嫉妬深い啓ちゃんに傘のことをとやかく言われるのは面倒だった。
まさかこの傘に啓ちゃんが気づいているなんて思いもしなかった、自分だってすっかり忘れていたくらいだったのに。
カバンの中から取り出した折り畳み傘は綺麗に畳まれている。
何度も何度も畳み直した記憶がふっと浮かんだ。
あの夏は雨ばかりだった。
記録的冷夏って言われていたっけ。
早朝まで本を読みふけり、朝焼けに顔を上げた途端に、しとしとと雨が降りはじめ窓を濡らす。
その雫を指先で追いながら、私は窓の外を眺めた。
人気のない学校の教室を思い浮かべて。
勉強机の中にしまい込んだ傘を毎日出してみては、どう返そうかと考えた。
畳み直したり、開いてみたり。時には口に出して練習したりして。
さりげなさを演出しながらも会話が続く為にはどうしたらいいのか、夏休み中に会ったらどうしようとか、そんなことばかり考えて。
―――でも、夏が終わっても私は傘を返すことはできなかった。
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