紺色傘が開かれる時

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ある日それは突然始まった。 「ねえ、咲。あの子さ、むかつくから無視してよ」 クラスのリーダー的な存在である英美が、理科室での実験中に私の耳元で囁いた。 ビーカーを温めるアルコールランプの炎がゆらゆらと揺れている。 挙げられたのはいかにもターゲットになりそうな大人しいクラスメイトの名前。 彼女がこういういじめをみんなにさせているという話は聞いていたけれど、私に直接言ってくるのは初めてだった。英美は気づいたんだろう。私が彼女の命令に従っていないことを。 揺れる炎を見ながら、どう答えるべきか考えていた。逆らうと後がめんどくさいことになりそうではある。でも、こういうのは好きじゃない。 彼女はみんなの女王様にならなければ気が済まないのだろう。やらないと分かっているから直接圧力を掛けて来たということは、容易に想像ができた。 「どこがむかつくの?」 英美は嘲笑を浮かべながら、そのクラスメイトの方を振り返って耳元で言う。 「顔? ほら、なんかびくびくした態度とか。服もダサくない?」 流行りの服に身を包み、毎日違った髪型をして学校へ来る英美と比べれば、確かにおしゃれだとは言えないだろう。
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