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◆名前を教えてください
夢の国の中にいるようなレミーのケーキ。今日の品揃えは27種類。仙道さんに課せられたミッションは、その中から10種を選び、店員に伝えて購入する事。
店内は女子の割合が90%。話題のスイーツを手土産に使いたい営業さんは、流石に自分では並べず、事務の女性に頼むのが通例(もちろんお礼に「自分用も買っていいよ」と一言添える奴がモテる)。
そんな中、上背のある仙道さんは目立つ事この上ない。熱い視線を一身に集め、いよいよ順番がやってきた。
「いらっしゃいませ!大変お待たせ致しました。」
「さすが話題のお店ですね!初めて来たので戸惑ってしまって…。ケーキを10個、持ち帰ります。」
ケースにはぎっちりと色とりどりのケーキたちが並んでいる。そして1点毎に、パティシエの思いの詰まった品名が。長身の仙道さんは、ケースから一歩下がって真剣に選び始めた。
「えーと。これと、これと、、、これを」
ガラスを指差す仙道さん。でもケース越しの店員さんには伝わらない。
「お客様、申し訳ありません、名前を言っていただかないとわからなくて…」
「ああ!失礼しました。ワタクシ仙道と申します!」
シ…ン と凍り付く空気。
姿勢を正し、一礼するイケメンにご婦人方の視線が集まる。
予想の斜め上を行く天然っぷりに、堪らず服部さんがガラスケースの前に駆け寄った。
仙道さん、名前っ!!ケーキの名前を言ってください!!!
服部さんを巻き込んで、メルヘンチックな買い物は続く。180㎝越えのマオカラージャケットと高級スーツの二人組が、相談しつつスイーツを選んでいる。
なんだこの異様な光景!目福か?罰ゲームか?何かの撮影か?俺はあの二人の連れだと悟られないように群衆に溶け込んだ。
『あの格好いい方は、センドウさんっていうのね…』
俺の隣の見ず知らずのご婦人が頬を赤らめ、熱い視線でその姿を追い始めた。
また何か惹きつけてきて。ますますデスクから遠ざかるじゃないか。それでも仕事はキッチリこなしてしまうので、文句の言いようがないのだけれども。
…仙道さん。もうこれ以上、顔を広めるのはやめてくださいー!
<おしまい>
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