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歯ブラシを出しっぱなしの兄、藤寿(トウジュ)に文句を言いながら。 一区切り付いた藤寿が袈裟姿で朝刊を持って、本堂の奥にある住居の台所に向かう。 昔ながらの炊事場だ。 今年23歳になる樒は、スレンダーな美人。 手入れの行き届いた、自慢の艶々のストレートヘアを背中まで伸ばした、目鼻立ちの整った誰もが羨み憧れ見惚れる容姿だった。 オレンジのニットのセーター、濃紺のデニムで動きやすい服装を好んでいた。 「あ痛!!」 ごつん、という鈍い音。 「またぶつけて、生傷絶えへんな」 肩幅広い180㎝はある長身の藤寿は、今年30歳になる。 古い造りの民家でも寺の住居でも、ぼんやりしていると鴨居に額をぶつける。
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