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既に付いている眉間の傷は、数年前にそれで切ったものと、昔飼っていた猫に引っ掛かれたものだ。 今は被害が少ないように、よく使う部屋の鴨居には目立たないように薄いクッション材が貼ってあった。 穏やかな性格なのに動物に好かれないのは、視力も弱く、無意識に目付きが鋭くなるせいかも知れなかったけれど。 法事で檀家を訪れても、犬に吠えられ猫に威嚇されるのは、いつものことで、もうひとつ理由はあった。 「また憑いて来よった。昨日亡うなった檀家のお婆の霊が」 「藤寿のこと可愛がってくれてたもんね」 「…お兄さんとは呼んでくれへんか」 柔道を習っていた2人だけれど、一度妹に負けて腰を痛めてからというもの、どこかでバカにされている気がしていた。 そして。 兄は職業柄とでもいうのか、霊感が強く、亡くなったばかりの人間やら動物の霊が、はっきり見えてしまう。 妹はやや弱めで、感じることはあっても姿は見えない。よほど強い怨念を感じたときだけ、影のようにぼんやりみえる。 ふたりともすっかり慣れたもので、無害の霊には好きに成仏してもらうよう、気が済むまで泳がせていた。 つまり、その辺にうようよいるということだ。
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