まぼろし

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それは自分がどこの誰かを探られない為 だったのだろうか。そして、二度と会わ ないという彼女の決意を表しているのかも しれない。だとしたら、探し出したところ で彼女は喜ばないだろう。自分の何が 早生子にそう思わせたのかわからない。 しかし、もう尋ねることは出来ない。手の 届かないところへ行ってしまった。それが 彼女のやり方だったのだ。 東京駅の新幹線改札口を出たところで、 宗一は聞き覚えのある香の匂いに気がつい た。早生子がいつもハンカチに落として いたあの香だ。ハッとした。早生子が 近くにいる。 宗一は辺りを見回した。
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