まぼろし

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白シャツの上に黒いベストを着た男が宗一 の前に白い皿とフォークやナイフを入れた バスケットを置いた。 宗一が店にいる間に早生子が来ることは なかった。彼は部屋を訪ねてみようと思い 立ち店を出た。渋谷駅方向へ歩きながら 電車の時刻を確かめたが、そのとき初めて 早生子が何処に住んでいるのか知らない ことに気がついた。 場所がわからないなら固定電話の局番から 推量しようとした。では、彼女の固定電話 の番号は? 彼は彼女と出会ってからの 会話を思い出そうとした。だが、思い出せ なかった。当然である。早生子は住んで いる場所の話をしたことがなかった からだ。
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