その1。春の雨

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たくさん食べて、適度に酔っ払い、気持ちを吐き出した可愛い後輩は 「ちゃんと話し合います。」と気丈に微笑む。 …わたしもね。と心のなかでため息をつき、 店にタクシーを呼んでもらい、彼女をタクシーに乗せ、 「また、明日。」と微笑んで、見送ることに成功した。 深いため息が出る。 どうしてこんなに苦しいのか? それはまだ、あの馬鹿を愛しているからだ。 前回の浮気も許してしまったのは 私があの男を愛していたせいだ。 あの男は私が愛しているのを知っていて、 また、許されるとタカをくくっているのだ。 悔しくて涙が出てきた。 「美鈴。店に戻りな。一緒に飲もう。」とさくらさんが私を呼んでくれた。 前回の浮気騒ぎの時も私が泣くのに付き合ってくれた やっぱりバレたよね。 私がちっとも食べていない事に… カウンターに座りなおして、さくらさんの顔を見る。 「また、あの馬鹿なんかしたの?」と聞かれ、 「医者なんかと付き合っちゃだめだね。やっぱり浮気してた。」と呟くと、涙が頬を伝う。 「あんなヤツのために泣くな。」 とさくらさんが私の頭をポンポンと撫で、 ドラゴンが新しいジントニックを作ってくれた。 「明日、夜勤だから飲んじゃおうっと。」私が泣き笑いの顔をすると、 「付き合ってあげる。」 とさくらさんが店のカフェエプロンを外し、私の隣にくつろいだ様子ですわった。 昔のさくらさんの定位置だ。 ドラゴンが目下妊活中の妻に綺麗なオレンジ色のノンアルコールのカクテルを出してくれる。 ドラゴンはシェイカーを振る姿がとてもカッコイイ。 彼を目当てにやって来る女性客が沢山いるので、昔はかなり遊んでいたようだけど、 今の彼はさくらさんしか眼中にないって感じ。 ま、当然ですけど… 今日は平日だから、お客さんが少ないよね。 私はこのご夫婦の好意に甘えることにした。
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