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その日は空から白いものが舞い降りていた。
雪だ、大粒の雪が降っていたのだ__
『我輩お腹が空いたのだ』
我輩母君の懐に潜り込んで乳房をまさぐる。
『偉そうなことばかり言うけど、まだまだ子供だね』
うんざりそうに吐き捨てる母君。それでもまんざらではない表情だ。我輩を子供と感じて、愛情をもって接している。
最近、その乳の出は少なかった。この凍てつくような真冬の寒さだ、捕らえる獲物の量は皆無と言って等しい。我輩が生まれた当初より、その体力は減少しているようだ。肉付きも悪いし毛艶もよくない。
『母君は空腹なのか?』
『大丈夫さ。あたしはノラだよ、生まれてからずっとノラネコ。こんなの普通さ』
母君は言って我輩を毛繕いする。勿論やせ我慢だろう、我輩を心配させまいとする優しさが含まれている。
邸宅からはいい匂いが漂ってくる。窓からうっすらと漏れる明かり、響く少女の笑い声。それが楽しそうな団欒のひとコマを連想させる。あの老婆は恐ろしいが、一緒にいた少女は優しいように思えた。
数日前、あの老婆に追い掛けられたのだが、少女が『ばーちゃん、ダメだばい』と止めさせてくれたからだ。それにたまに『ほれ、食わっし』と食べ物を渡されたこともある。我輩に食べ物をぶつけたことは許せないが、あの時の味は実に美味であった。
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