魔王、運命を呪う

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『なぁ、母君。あの人間に命令して、食料を持ってこさせましょうか?』  そう感じて我輩は言った。 『なにを言ってるの、この子は!』  思いもしない怒号が響いた。 『人間なんてあてにならない。あたしら他の生き物は人間のせいで苦労してるんだから。人間ってのは悪魔みたいな存在なんだよ』  普段の母君とは違った切実な表情だ。生まれてからずっと、煮え湯を飲まされてきたのだろう。散々虐げられて、多くの子供達を奪われてきたのだろう。……悪魔みたい、というのは流石に戸惑うが…… 『とにかくもう少しの我慢だよ。春になれば暖かくなる。暖かくなればカエルなんかの小動物も動き出す。それに桜も咲くからね』 『……桜? それは美味なのですか?』 『桜は食べられないよ。だけど優しいのさ、全てが薄紅色に染まって、心まで鮮やか。あれを見れば、どうしてあたし達が寒い季節を生き抜いたのか、その意味が分かるのさ。全ては春の訪れを味わう為なんだよ。桜は命の縮図なのさ』 『それは興味深い話でありますな。桜か、魔界にはそのようなものはなかったな』 『まだそんなこと言って』 『母君には信じて貰えぬだろうが、我輩は魔王なのだ』 『馬鹿だね、あんたはネコなんだよ。正真正銘あたしの子供さ』  こうして我輩は、母君の懐で眠りについたのだ。  いつの間にか雪はやんでいた。代わって天空を支配するのは雄大な満月だった。それはそれは、えもいえぬ美しいお月様。月明かりは辺りを幽玄に照らし全てをキラキラと輝かせる。人間の恐ろしさはともかく、この人間界の素晴らしさだけは実感していた。  ……翌朝我輩が目にしたのは、凍り付いて冷たくなった母君の姿だった__
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