魔王と少女と大地の聖霊

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 全てを土砂降りの雨が覆い尽くしていた。まるで冬に逆戻りしたような寒い日だった。  天涯孤独の身となった我輩は、獲物を捕らえようと必死に狩りをした。しかし成果はなし。堪らぬ寒さと空腹に苛まれていた。 『あれは?』  少し離れた倉庫の陰、一匹のネズミがチョロチョロと動いた。  しめた! 雨の降りしきる中庭を飛び出した。雨は容赦なく身体を打ち付けるが、この際気にはしない。今はなんとしても食料を獲るのが先決だから。  ネズミの方もそれに気付いたらしく、裏山に向かって逃げ出す。  こうして雨中の追走劇が始まったのだ。敵は丸々と太ってかなり美味しそうだ。倉庫に蓄えてある穀物でも食べていたのだろう。ここは是が非でも討伐したいところ。  しかし現実は厳しいものだ。所詮こちらは空腹の身。そもそも魔王の頃はネズミなど追いかけたこともなかった。体力に限界を感じ、敵との差が広がっていく。  ……こんなことなら、ちゃんと母君から狩りの仕方を教わっておくべきだった。……既にネズミの姿は、雨で白ばむ光景に消えておったのだ。  ザーザーと雨は降り続く。空腹の上に体力も限界。我輩自慢の黒い毛艶も、雨でグシャグシャ。こんな虚しさを感じるなら、ネズミなど追いかけねばよかった。  惨めだ、実に惨めだ。魔王と崇められ、恐れられていた我輩が、こんな思いをするとは。……せめて母君や、兄弟達が健在であったなら……  仕方ない、ねぐらに戻って寝るとしようか。そう思って、項垂れたまま歩き続けた。
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