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『……人間の恐ろしさは理解しました。進言通り、注意すると致しましょう。それはさておき、人間は魔法を操れるのでしょうか?』
『……魔法? あんた、なにを言ってるの?』
『先程の人間が乗り込んだ、箱形生物のことです。我輩あのような生き物は知らぬ。……いや、あれには生気の欠片も感じ取れなかった。つまりは魔力を原動力として動かしておるのであろう』
我輩訊ねるが、母君はきょとんとした様子。
『あんたやっぱり子供だね。あれは自動車という人間の乗り物さ。あれにも気を付けるんだよ。あれに轢かれたら、紙切れみたいにペシャンコだ』
『成る程。自動車という魔法であるか』
それで察した。乗り物ということは、やはり魔法であろう。魔界においても、"じゅうたん"や"ほうき"のように魔力で動く乗り物は幾多とある。魔力が籠められているということは、衝突すればただでは済まない。一応注意するにこしたことはないであろう。
悲しいのは母君がその事実に気付いていないことだ。所詮はネコという小動物、魔法という高等な世界観は理解し難いのだろう。それでも今生では我輩の生母である。これ以上責めないのが最良だと思えた。
『さてと、人間は居なくなったね』
そんな我輩の思惑も余所に、母君はぐっと手足に力を籠めて伸びをする。
『ミャァ、ミャァ』
辺りから人間は消えていた。天敵のいない庭先を、弟達が駆け回る。この世の恐ろしさも知らず無邪気なものだ、単純な構造でうらやましくも感じる。
麗らかな陽射しで確かに気持ちいい。遠く見える山並みは枯れ木ばかり、季節は冬真っ盛りといったところだ。我輩寒いのは苦手である。我が居城は燃え盛る業火の中にあった故にな。
風は皆無。近くの木々では小鳥達がチュンチュンとさえずっている。それを見ていると欠伸ばかりが出てくる。瞼を閉じて暫し眠りについたのだ__
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