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ごめんなさい、ごめんなさい。
頭の中でその言葉だけが、浮かんでは消え、浮かんでは消えてを繰り返してる。
私はいったい誰に謝っているのだろう。
……思い出せない。そもそも私は何か悪いことでもしたのだろうか。
ごめんなさい、ごめんなさい。
私は思考を続けながらも、それをやめようとはしなかった。沈んだ暗闇の中で、壊れたカセットテープのようにただひたすらに謝り続ける。
ふいに光が私を照らした。人肌に触れているような温かさが私を包む。
私はその光に導かれるようにそっと目を覚ます。
「やあ、調子はどうだい?神埼里花さん」
目を開けると、そこには白衣を纏った見知らぬ男がいた。私とその男は一つのテーブルを挟んで、椅子か何かに腰かけているらしい。
だけど、どこに行ったって私のやることは変わらない。ただ謝り続けるだけだ。
そう……。顔も名前も知らないその相手に許してもらえるまでは。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
男は困り果てたような顔を浮かべると、手元のクリップボードに目を落とした。歳は三十を超えたあたりだろうか。髭は綺麗に剃られていて、身なりがきちんと整っている。
しかも、それだけではない。私が今いるこの部屋もこじんまりとはしているものの、余計なものが置かれてなく、決して不快感を与えない。部屋全体も白で統一されているおかげか、部屋の隅に佇む緑の観葉植物がよく映える。
しばらくすると、白衣の男の後ろから小気味いいノック音が響く。「失礼します」という声と共に今度は無愛想な顔をした若い女が現れた。
「先生。これが前回のカルテです」
先生と呼ばれた男は、女からカルテを受けとると、ありがとうと一言お礼を言った。
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