ごめんなさいは魔法の言葉

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……これはいつの頃の記憶だろう。 真上から降り注ぐ日の光が容赦なく私の背中を照りつけている。 今は夏だろうか……。 どうりで暑いわけだ。視界もおぼろげで、何もかもが歪んで見える。 どこかで休まないと。そう思った私はふらふらと木陰のベンチに腰をおろす。 見ると、スーツを着用していて全身は汗だくだった。 いくらクールビズ仕様とは言え、こんな暑い日に全身真っ黒な服で外を出歩けば、誰だって熱中症になる。人間と言うのはつくづく非合理的だなと今更のように思う。 ……そうか。思い出した。これは私が社会人になって一年目の夏。営業に配属された私はこの頃、成績を少しでも伸ばそうと奔走していたんだっけ……。 ふと物思いに耽っていた私の頬に冷たいものが触れる。 私は「ひゃあっ」という奇声をあげて、思わず飛びはねた。 「よお、里花。こんなところで堂々とサボりか?」 そこにいたのは会社で1コ上の先輩でもあり、私の幼馴染でもある里志くんだった。その手にはキンキンに冷えた缶ジュースが握られており、それを見た私の喉がごくりと鳴った。 「はは、なんてな。冗談だよ。これ飲むか?」 里志くんは屈託のない笑顔を浮かべながら、私に缶ジュースを差し出す。 「ご、ごめんなさい。里志先輩。ちょっと暑くて立ちくらみしてしまって。だ、だから別にサボってたわけでは……」 「ばーか。里花がそんなことするような奴じゃないってことは俺が一番よく知ってるよ。あとそれと、同い年なんだから、みんながいないときはその呼び方やめろってこの前言ったろ?」 「うん。だけど、やっぱり里志くんは私より一年早くこの会社に務めたんだから敬語くらいはちゃんと使わないと」 「あっ、ようやく里志くんって言ったな。まったく里花は昔から真面目すぎなんだよ。少しくらい自分に正直に生きないと人生損するぜ?まぁ、俺は里花のそういうところキライじゃないけどな」 歯の浮くような台詞を照れもせずに言ってのけた里志くんは、私の横にどかっと座ると自分の分の缶ジュースを一気に煽る。美味しそうにジュースを飲み干すその横顔は昔から全然変わらない。
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