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「私、この仕事止めようかな」
突然切り出した私の言葉に里志くんが缶の中身を盛大に吹き出す。
「は、はあ?何言ってんだよ。せっかく一年間頑張ってようやくここまで漕ぎ着けたのに」
「うん。でも大学在学中に一発で内定を取得した里志くんと違って、私は大学卒業してからも一年間路頭をさ迷ったあげく、この会社にも里志くんの口添えあって入れたようなものでしょ?だからちょっとね……」
私のいつになく弱気な発言を聞いて、里志くんが勢いよく立ち上がる。私は目を伏せるように視線を足元に落とす。
「俺はちゃんとこの一年、里花の頑張りを見てきたつもりだ。だからこそ俺は里花にこの仕事を任せられると思ったんだぜ?」
「でも私これ以上、里志くんの顔に泥を塗るようなことはしたくないよ」
気まずい沈黙が落ちる。一向に顔をあげようとしない私の頭上で里志くんが大きなため息をつくのが聞こえた。
「いいんだよ。里花は俺の後輩で、俺は里花の先輩なんだから。むしろ、失敗して当たり前みたいな図太さを持ってたほうがちょうど良いんだぞ。だからもうちょい頑張ろうぜ」
意外な返答に私はただ呆然とした。頭をくしゃくしゃと撫でられて、真夏の太陽にも負けないくらいの笑顔で私を励ましてくれる。
「うん、ごめんね。私、足を引っ張らないように頑張る」
そう。私にとって里志くんは太陽みたいな存在。
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