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……ここは?
さっきとは打って変わって今度は騒々しい場所に出た。私は歩道の真ん中にぽつんと突っ立っている。
視界を埋め尽くさんばかりのビル群。つんと鼻をつく排気ガスの匂い。喧騒を放ちながら道を行き交う人々。
私は今度はどこにいるのだろう。
ぼーと立ち尽くしていると、雑多の向こうから私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「おーい!里花ー。こんなところにいたのかもうみんなバスで待ってんだぞ!」
里志くんの声だ。人混みを掻き分けてこちらへとやって来る。
「ったく、あれ程はぐれるなって、言ったのにどこほっつき歩いてたんだよ」
里志くんは私の手を乱暴にひっ掴むと、踵を返してずかずかと歩き始める。
そうだ。この記憶は中学二年生の秋頃にクラスのみんなと修学旅行に来た時の思い出だ。
周囲を見渡すと、紅葉の葉が街のあちこちに飛び交っており、無味乾燥な都会の街並みにどこか落ち着いた印象を与えてくれる。
確かこの時、私は班のみんなとはぐれて、ひとり迷子になってしまったんだっけ。
「ごめんね。里志くん。トイレ行って戻ってきたら、班のみんながいつの間にかいなくなってて。探したんだけど見つからなかったの」
もごもごと見苦しく言い訳をする私を里志くんは軽蔑しただろうか。
だけど、里志くんはそんなこと、ちっとも思ってもいなかったみたいで……。
「分かってるよ!どうせあいつら里花のことをからかってわざと居なくなったんだよ。絶対あいつら許さねえ!」
いつも優しい里志くんがこの時は珍しく私のために怒ってくれたね……。
「ごめんね、違うの。きっと私がどんくさいからいけないの。だから、里志くんがそんな怒る必要なんてないよ」
「何が違うんだよ!?あいつら、さっきだって里花のことを探しもせずにずっとお喋りしてたんだぜ。俺は里花にはずっと笑顔でいてほしいんだ。俺だけ楽しくても意味ないんだよ」
言いながら、私の手を引く里志くんの手がさらに強く握りしめられる。
「そうだね。いつもごめんね里志くん」
「だから謝んなくてもいいってば」
このあと私と里志くんは先生にいっぱい怒られた。だけど、あの時感じた手の温もりは今でも忘れない。
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