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また変わった。
次はいったいどこへ来てしまったのだろう。でもなんとなくここは今までの所とは何か違う気がする。
暗い。ここはどこかの室内のようだ。ゴミがあちこちに散乱していて、吐き気を催すような異臭を放っている。
なんだろう。私はここをよく知っているような気がしてならない。だけど、思い出すことを躊躇っている。
そんなことを思っていると、隣の部屋から誰かの怒号が響く。どしどしと床を踏み鳴らしながら、こちらへと近づいてくる。
里志くん?……いや、これは里志くんなんかじゃない。
「おらー、今帰ったぞ!ん?おい、里花テメェ俺が帰ってくるまでに飯の支度しとけつったろ?出来てねぇじゃねえか!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。だけど、ウチはもうガスも電気も止められてるから作れなくて……」
「ああん?言い訳すんじゃねえ!俺は今、スロットで全額スッちまってイライラしてんだ。ぶっ殺されてえか!」
「ごめんなさい、ごめんなさい。だからもう、ぶつのだけは許してください」
「うるせー!親に向かってその口の効き方はなんだ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
……そうだった。この頃の私は、実の父親から虐待を受けていたんだった。
元々、面倒見のよかった父は前の会社をクビになってから急に人が変わってしまった。昼間から酒とギャンブルに溺れるようになり定職にもつかなくなった。母もそんな父に愛想を尽かしたのか私を置いて逃げ出した。当時、私が4歳の頃の話だ。
それから二年間。母に見捨てられた父はさらに機嫌を損ねて、いつしかその鬱憤を私で晴らすようになった。腹や背中などを執拗以上に殴られ、私の身体は全身痣だらけだった。
そして、そんな時の私の口癖は決まって『ごめんなさい』だった。
それを言い続けていれば、どんなに虫の居所が悪い父もいずれ私を笑顔で許してくれる。どんなに私が悪いことをしていなくても、私がそれを言うだけでみんな幸せになれる。
そう。ごめんなさいは魔法の言葉。私はずっとそれを信じていた。
「おい、クソオヤジ。テメェ里花に何やってやがる!その汚い手を里花から離せ」
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