第一話

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 二年生に上がったばかりの頃、母様が肺結核で死んだ。  泣いて縋ろうにも病がうつってしまうからと言って、死に目にも会わせてもらえなかった。  多分、そのことがしこりになったのだろう。二か月も経たずに現れた新しい母様を、僕は「母様」だとは思えなかった。当時の僕は、本当の母様が死んだことに実感が持てなかったのだ。それなのに現れた見知らぬ女に懐けというほうが無理な話だ。  母様の墓は実家の方に作られるとかで、遺骨は早々に屋敷から持ち去られてしまった。結核を広げないようにと、私物も全て処分されてしまっていた。僕は母様の名残に縋ることもできなかった。  母様に懐かない僕の居場所は徐々に屋敷から無くなっていった。父様は新しい母様を愛していて、新しい母様に懐かない僕を叱るようになっていったのだ。  当時の僕はさんざ考えて、裏庭に母様のお墓を作ることにした。お墓と言っても中身はない。ただ、盛り土をして、大きな石を置いただけの墓だ。  僕はそれに手を合わせることで、人知れず母様をしのぶことにしたのだ。
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