第一話

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「こんなところで何をやっているのだい?」  背後からかけられた声に振り向くと、そこにはセーラー服姿の女学生が立っていた。 「フセさん」  彼女が何だったのかは今ではよく思い出せない。もしかしたら使用人の娘だったのかもしれないし、新しい母様の連れ子だったのかもしれない。とにかく僕たちは同じお屋敷で暮らしていたのだ。 「母様のお墓参りだよ。フセさんこそ此処に何の用」  つっけんどんにそう問うと、フセさんは拗ねたような顔をした。 「君、そんな他人行儀な呼び方は止めようじゃないか。仮にも一つ屋根の下に住んでいるのだから」  思いがけず幼い表情をした彼女に僕は驚いてしまって、肯定とも否定とも取れないうめき声をあげるしかなかった。すると彼女は、今度は大人の女性のような艶やかな笑顔を作ってこう言うのだ。 「姉様とお呼びなさいな。今日から私は君の姉様だ」
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