産まれたての人々

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 沐浴を終え、赤ちゃんはひとみの元へと連れてこられた。 満身創痍のプロレスラーのように、ひとみは全てがぐちゃぐちゃだ。出産の疲労のせいなのか、目の下に黒々とした隈も出ている。  すぐに休みたいだろうに赤ちゃんが来た途端、妻は花のような笑顔を見せた。 「……やっと会えたねぇ!! 初めまして!」 肺呼吸の仕方を覚えた息子は、母親の声に聞き耳を立てているかのように静かにひとみに抱かれた。  聖母マリアのような微笑みで、妻は笑う。 2人の姿を呆然と見る僕は、どんな顔をしていたのだろうか。突然ひとみが僕に「初めまして」と言った。 「え? なに? 初めまして?」 「うん。初めまして『お父さん』。お誕生おめでとうございます」  ひとみの言う意味が分かり、僕もひとみに同じ言葉を返す。 「初めまして、『お母さん』。この度はご子息とお母様のお誕生をお喜び申し上げます」  息子が生まれて、僕ら夫婦も親に生まれ変わった。 これから共に泣き、共に笑い、時には誰かに愚痴を言いたくなるような大喧嘩をする事もあるかもしれない。  だからこそ、今日という日を忘れないようにしよう。 僕は1人ではないと感じた日。    今日は大切な人の笑顔で満ちた、幸せな誕生日。 fin
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