爆弾処理

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「きゃーー!サブリーダー、どうしたんですか?」  朝のミーティング。莉子が部屋に入って来た途端、オペレーターたちが声をあげた。 左の目の下。頬骨のあたりが赤黒く腫れている。伊達眼鏡と湿布では隠しきれなかった。色白なので余計に目立つ。 「ちょっと酔って転んだ拍子にテーブルにぶつけちゃった。」 「うわ…痛いですよね。病院、行きました?」  オペレーターたちが顔をしかめて聞いてくる。 「ごめんね、こんなん見せて。大丈夫だから。 はい。ミーティング始めます。 今日から新しい商品を扱います。詳しくは星リーダーから説明があります。」 「はーい!おはようございます!天馬でーす!」  天馬でーすの一言にオペレーターから笑いが起こった。恒例の挨拶だ。 「サブリーダー…莉子先輩からあったように今日から新しい商品の注文を受け付けまーす。 スペックと価格、注文の流れは資料の通りです。 バージョンが多いので間違う可能性があります。必ず確認願います。確認手順も示してます。 手に負えない案件は僕か、莉子先輩にヘルプを求めてください。」  星天馬。このコールセンターの通販チームリーダー。本社からの出向社員で、支社2年目。28歳。年下の上司ということになる。 スポーツマンタイプの長身。ジャニーズ系の雰囲気イケメンで、オペレーターの女性から王子と呼ばれ、人気だ。 とにかく明るくフレンドリー。コミュニケーション能力は高い。飲み会で隣り合ったグループと意気投合して、いつの間にか大宴会というのも珍しくない。 その能力が遺憾なく発揮されるのが爆弾処理だ。  爆弾処理。つまりタチの悪いクレーマーへの対応である。 オペレーターは実務前研修でクレーム対応も学ぶが、世の中にはマニュアル通りにいかない事が溢れているものである。 そういう規格外のクレーマーを莉子と星天馬が引き受けている。  大学卒業後、契約社員で入ったコールセンター。特に好きなわけではなかったが、就職が厳しいご時世に自立できる給料と社会保障、表に出ないでできる仕事はありがたかった。 元来真面目な性格なのと、勉強熱心なところからメキメキと頭角を表し、3年前、29歳の時にクレーム処理の能力を買われ準社員となった。来年あたり正社員にという打診もある。
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