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コールセンターのシフトは1時間ごとに決められ、24時間オペレーターが少しずつ入れ替わる。日勤、中夜勤、夜勤チームがあり、時間が来ると業務引き継ぎが行われる。莉子は日勤チームだ。
今日は新商品の受注が始まったため、クレーム案件の情報交換が念入りに行われた。
「はー!終わったぁ!」
引き継ぎ後、天馬は会議室で背伸びしながら言った。
「今日は大きなクレームなくてよかったですねー!」
「そうですね。明日、夜勤からの報告を受ければ問題なく進める事ができそうです。」
資料を片付けながら淡々と返す莉子を天馬がじっと見つめている。
「莉子先輩…莉子さん。この後、時間取ってもらえませんか?」
オフィスチェアの背もたれにもたれたまま、天馬が言った。
「はぁ…」
「僕に、少し付き合ってもらえないですか?」
いつもとは違う、どこか強い調子に気圧される。
あざの事もあり早く帰りたかったが、上司からの誘いを無下に断る事もできない。
「わかりました。」
そのまま会議室での面談になるのかと思いきや、会社からほど近い小洒落た居酒屋へ連れて行かれた。
夕方になっても湿度を含むようになった空気は夏の気配を強く伝えてくる。一日中、管理された空調の中にいるせいか身体が重い。天馬と連れ立って歩いているのもあるかもしれない。
居酒屋では個室へ案内され、居心地が悪かった。
「ゆっくり話したいからパパッと注文しちゃっていいですか?」
部屋に通されると、いつも通り人懐っこい笑顔で聞いて来た。
「あっ、はい…」
「注文おねがいます。」
天馬はインターホンを取ると明るいノリでテキパキと注文していく。さっきの強い調子は気のせいかと思った。
料理が揃うまで自然と爆弾処理の話になった。
最近読んだ参考になったコラム。本社の先輩との情報交換などなど…語り口はいつものように軽いのだが、真剣に取り組んでいる事が伝わって来た。
(意外だ。)
莉子は内心驚いていた。苦手意識もあって天馬と接するのは必要最低限にしていたから。
注文が揃ったところで、天馬はジョッキを置き、ぐるっと部屋を見回すと居住まいを正した。
何だろうと莉子は不思議に思った。天馬は莉子を正面から捉え、口を開いた。
「莉子さん、近江支店長と男女の関係があるんですか?」
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