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ビックスローの部屋はいつでも息子が帰ってきても良いようにきちんと整理整頓されていた。あの様子からするときっと甘やかされて育っていて、ずっと素直になれないまま反抗期の延長戦をやってきたのだろう。
その息子は叱られた子供のようにうなだれてベッドに腰掛けていた。
「おメエ、ホントはアレキサンダーって名前だったのか。」
「んだ。ビックスローはあだ名だっただよ。ここの村人はみんな小さくてオラは村一番の大きさで動きもノロかったからビックスローと呼ばれてただ。」
「アレキサンダーって顔ではねエな」
「オラもそう思うだ。
そんで服装はみんな黒一色で、顔にはヒゲを書くだ。昔からの風習だ。」
「そりゃあ泥棒に間違われるだろな」
「そして、二と語尾に付ける訛りがあるだ。」
「人によっちゃあバカにしているようにとられるかもな」
「オラは村を出て初め知っただよ。昨日までの常識が突然に非常識になってしまって、ただただ混乱するだけだっただよ。ある人に見た目に合った話し方をしてみれば良いと言われ、今みたいに変えただよ。」
風習が違うと言ってしまうのは簡単だがそれを受け入れるのは簡単ではない。
ビックスローはきっと行く先々で相当な苦労を重ねた事だろう。
「椅子の事は、詳しい話をまあまがおじさんの所へ聞きに行っているだよ。」
「ありがてえ。これでやっとあの椅子の謎がとけるかも知れねえ」
しかし、しばらくして帰ってきた母親の口からは何も分からなかったという言葉しか出て来なかった。
その晩、母親は久しぶりに帰ってきた息子の為に腕によりをかけて料理を振る舞った。ビックスローも照れながらではあるが久しぶりの愛情あふれる料理を満喫していて終止笑顔を崩さなかった。
母親はルーイに話の一部始終を聞いて、涙を流し息子を連れてきてくれて本当にありがとうと何度も何度も礼を述べていた。
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