第2章 依頼人

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 全体的に濃い茶色した大きめの座面は木目がはっきりと見えて、光を乱反射しながら流れる清流を思わせる麗美な柄、その側面には動物や人間の文様があり、一回りで物語が始まって終わるように彫られている。座面裏からななめ下に向かって付いている四本の足は太さが変えられているし、一番下の部分は猫の足を思わせる様な球体が彫られていてどんな重さにも耐えられそうであった。しかも長い間、大事に使われていたらしく角が全てまるくなっているし、所々傷や割れ欠けがあるがそれらも丁寧に補修されている。細かい溝の間にも埃やゴミが詰まっている様子もなくきれいに掃除されていた。  ルーイはこの椅子にすっかり心を奪われてしまい、かなり長い間手に取って細かい所まで丹念に眺めていた。 「ふうむ…こんな作りの椅子が有るとはね…世の中広えもんだ。」  ところがすぐに妙な事に気がついた。いつもは最初に分解して、部品毎に形を元に戻して行くのだが、何だか上手く行かない。そもそもきれいに分解さえ出来ないのだ。師である父と祖父に習って仕事を始めてから30年もの間、何脚も椅子を壊してきたが、こんな事初めてだった。  困り果てたルーイはこの椅子について何か手がかりがないかビックスローに聞いてみる事にした。  普段、ルーイはあまり遠くの町に来る事はなかったが、町の人々は皆ルーイの事を知っていた。祖父の代から椅子壊し職人をやっていたからというよりは、他にそんな職人はいなかったからである。  そんなこともあり、町の人にビックスローの居場所を訪ねると町の集会所で働いているとすぐに教えてくれた。
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