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ルーイは集会所へ行きビックスローに椅子を見せると事情を話した。
「とにかく、あの椅子は特別で何故か壊せねえ。椅子の事で知っている事は何でも話してくれねえか?どこで手に入れて、誰が作ったのかそいつを知てえんだ。」
ビックスローは暗い顔をしてしばらく考え込んでいた。
「…んだば、あの椅子さ壊すのはヤメにすっだ。オラ、自分で壊す事にすっだよ。」
ルーイはこの言葉を聞いた時、恐らくビックスローには何か人に話したくない理由があるのだろうとすぐに分かった。
「おメエさんには何か話したくないワケがあるのだろうし、オイラも無理には聞こうとはしねえよ。だがな、今までおメエさんはずいぶんあの椅子に世話になってきたんじゃねエのかい?そしておメエさんもあの椅子をずいぶん大事にしてきた。違うかい?オイラ、職人になって30年になるけどよあんなに大事に手入れされた椅子は見た事ねえぜ。」
ビックスローは黙ってうつむいたままルーイの話を聞いていた。
「それによ、おメエさん木の苗が欲しいって言ってたよな?それほど思い入れのある椅子を自分で壊すとするとそれは叶わない事になるがいいんだな?」
「………あれはオラが盗んできたものだあ…思い入れなんてねえだよ…」
ルーイはため息をついて、下を向いたままのビックスローの肩に手を置いた。
「おメエさんがそう言うなら仕方ねえ。椅子はオイラん家にあるからそのうちとりに来なよ。待ってるぜ。」
ビックスローは答えなかった。
帰り道、ルーイはビックスローがなぜあんなことを言ったのか考えていた。
集会所の人に聞くと彼は愛想がなくて要領も悪いが、非常にまじめで子供や動物にやさしいというウワサだ。そんな彼が椅子を盗んだりするだろうか?しかし、全くの嘘を言っているとも思えない。しかしルーイにはこれ以上どうしようもなかった。
その後、三日経っても五日経ってもビックスローは姿を見せなかった。
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