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その日は朝から雨が降っていた。
どんよりとした雲が周りの山々の山頂を覆い隠していて空がぐんと低い。暗い気分がよりいっそう暗くなって行くようだった。ビックスローは昨日からルーイのいるこの町に来ていたが、ルーイの小屋に近づくに従って、重かった足がまるで一歩ずつ歩を進める毎に泥がこびりついていくように重くさらに重くなっていくのを感じていた。
“もう家に帰って椅子の事など忘れてしまうだ”何度もそう思って、来た道を引き返してはまた思い直してようやくここまでやってきた。小川のほとりには木々が並んでいて、下流に行くほど若い木が生えていた。その中で一番大きくて立派な木の下に座り込み、雨がやみそうにない事を知っていながら雨がやんだらルーイの小屋を訪ねようなどと、歩のノロい自分に言い訳しながら雨宿りをしていた。
ふと見上げると、太い枝には鳥が何羽か同じように雨宿りをしている。違う枝にはリスの親子がいるし、黄色い羽の蝶の姿も見える。大きな木は無数の葉をさわさわと揺らして雨露をはじいていた。
「立派な木だあ。皆を守ってるだか、小せえオラとはえれえ違えだ。」
「オイラのジイ様が職人になって最初の仕事で植えた木だそうだ。スゲエだろう?」
いつの間にか幹の反対側に立っていたルーイがそう言ってビックスローの前に椅子を置いた。
「ここいらは昔、ひでえ禿げ山だったそうだ。なんでも王様が戦争するとかなんとか言って木を全部切り倒しちまったんだと。それをみたオイラのジイ様がこの山を立派な木の生えた森にしてえからと職人になったそうだ。」
「それからは親父もオイラもこの森に木を植え続けた。小川の下流に行くほどに森が若いのはそのせいだ。オイラもいつかはジイ様のようにこんなデケえ木に育つ様な立派な仕事をしてえと思ってんだ。」
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