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目の前に広がる森の風景は濃い緑が目に痛いほど鮮やかで、果てしないように見える。木々は大小の違いはあってもそれぞれが生き生きとして生命観にあふれ遠くの山へと一体化していて、これが人の手によって蘇ったとは到底思えなかった。
「おメ様のジイ様は森がこんなに元通りになると思ってたんだべが…?」
「それはちょいと違うな。これはオイラの親父が言ってたんだが、“椅子を元の木には戻すのではなく、やり直す機会を作るだけだ”ってね。オイラ達椅子壊し職人でも椅子をまったく元通りの木にはできねえ。でもよ、大事に使っていれば何度でもやり直せるんだぜ。」
「この椅子にもう一度やり直す機会を与えてやっちゃあくれねか?これだけ大事にされてたんだ、きっと立派な木に育つぜ。」
ビックスローは目を細めて遠くを見つめたまま長い長い沈黙を続けていたが、目の前の小川の水面を叩く雨音が遠のいてきた頃、不意に口を開いた。
「この森をみてっどオラの生まれた村を思い出すだよ。なんもない所でオラは好きではなかっだけんども、今思うと平和で、のどかで、良い所だったんだと気づかされるだ。」
「遠いのか?」
「遠いだ。歩いてひと月はかかる…それでも行くだか?」
「荷馬車を借りて来よう。街道を行けば少しは楽だろう」
半日後、二人は雨のあがった道を荷馬車に乗って出発した。
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