3月32日

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「…カナタ…?」 私が彼に話しかけると、彼は黙り込んで動かない。 でもおかしい。 カナタは笑っている。黙り込んでいるのに、口元は明らかに緩んでいる。 「もうすぐ…誕生日終わっちゃうな。」 彼に言われて時計を見ると、時間は12時になりかけていた。 あわてて、スマホの電源を付けると、11時58分をさしていた。 …どういう事? 私は8時過ぎにここへ来たはずなのに。 「…あれ、時間過ぎるの早いな。もうそんな時間だったっけ…。」 言いながら、カナタの顔色をうかがう。 何か怒っているのだろうか。 カナタは顔を上げた。 やっぱり笑っている。奇妙な笑顔。ニヤリと笑ったピンク色の唇。 赤い目が光っている。 「3月32日の始まりだよ。」 彼はそう言った。 それと同時に、周りの音が一斉に消えた。 私は周りを見渡した。 静かすぎる部屋の中。奇妙すぎる。 よく見ると、時計は止まっていた。 私はスマホをみた。11時59分。 「3月32日って…。」 私は笑う彼の顔を直視することが出来ずにいた。
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