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「分娩室の前で、俺はまた倒れてしまった。意識がもうろうとした中で、分娩室の中から出てきた看護師さんに助けられたのを覚えてるよ。」
オレンジジュースに手を伸ばし、彼はゴクリと飲み干した。
「そして、分娩室が開いたと同時に、時間は元に戻ったと確信した。人の足跡が遠くで聞こえたり、鳥の声がしたからね。」
私は黙って彼をみていた。
どこかのおとぎ話を聞かされている。
そんな気分だった。
「次に目が覚めると、俺はすぐに赤ちゃんの病室を探した。そこで、はじめてモモに会った…、ってか俺、モモが生まれる時からモモのこと知ってるの!凄くない?!」
彼は、たちまち笑顔になる。
カナタが生まれた時から知り合いだったなんて知らなかった。
「ねえ!今思うと、3月32日にモモが生まれてきてくれて本当に嬉しい!だって、モモが『俺が作った時間』に生まれてきてくれたんだよ?…それはすなわち、俺だけの時間って事であって…うん!とにかく!嬉しいの!」
彼の唇が薄くなり、広がっていく。
目をキラキラさせて純粋な子供のような彼に、私は恐怖を覚えてしまった。
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