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「…あの時の赤ちゃんが、『俺の作った時間』に生まれてきてくれて本当に良かった…。」
呟くように、カナタは言った。
「…どうして…。」
私は恐怖で不安で、でも何故か嬉しいような気がした。
変なこの気持ちを抑えたくて、ケーキをフォークで刺す。
乾いてきてしまった生クリームを口に運ぶと、生クリームは口の中で水分を取り戻す。
「「……。」」
時計の音も、風の音も、室外機やエアコン、電車、車、人の話し声。
窓は開いているはずなのに、ぜんぶ聞こえない。
空間が、生きていない。渇いている。
「モモが、好きだからだ。」
カナタの一言で、一気に空間が潤った。
と、同時に私の中でマッチが擦られたような感覚。
私の体の中心から熱いものが全身に広がる。
「…えっと。」
彼はこちらを真っ直ぐ見ていた。
頬をピンクに染めていた。今までカナタと過ごしてきた時間の中で、一番彼が子供に見えた瞬間だった。
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