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『あの時って…ああ、俺が当て馬にされたやつだな?』
「当て馬ね」
あまりに戸川に似合わないので思わず笑った。
そんなことして許されるのは亀岡先輩ぐらいだろう。
今まで戸川とあの事件を話題にしたことはない。
当時、二人で飲んでいても戸川はそのことに触れなかったし、俺も聞かなかった。
だから詳しい状況は知らないし、彼女が泣いた理由も俺の憶測だ。
でも、聞いてみたくなった。
あんな人に泣かれたら、本当は一瞬でもグラつかなかったか?と。
まあ聞いても答えは決まりきってるし、逆に墓穴を掘りそうだからやめておく。
『あの人、素直じゃないからまた無理してんだろうな。
今の状況、彼女は大丈夫な訳?』
大丈夫じゃない。あの夜、糸がフツリと切れたんだ。
「…何で俺に聞くんだ?」
『よく見えるだろ。席、近いし』
気のせいか“よく見てるだろ”にも聞こえてどうにもばつが悪い。
さすがにあの夜までは知らないだろうけど。
「まあ大丈夫なんじゃないの?
…で、用件は何」
『ああ、それそれ』
無理矢理話を逸らすと、またフンと鼻で笑われた。
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