第2章

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『あの時って…ああ、俺が当て馬にされたやつだな?』 「当て馬ね」 あまりに戸川に似合わないので思わず笑った。 そんなことして許されるのは亀岡先輩ぐらいだろう。 今まで戸川とあの事件を話題にしたことはない。 当時、二人で飲んでいても戸川はそのことに触れなかったし、俺も聞かなかった。 だから詳しい状況は知らないし、彼女が泣いた理由も俺の憶測だ。 でも、聞いてみたくなった。 あんな人に泣かれたら、本当は一瞬でもグラつかなかったか?と。 まあ聞いても答えは決まりきってるし、逆に墓穴を掘りそうだからやめておく。 『あの人、素直じゃないからまた無理してんだろうな。 今の状況、彼女は大丈夫な訳?』 大丈夫じゃない。あの夜、糸がフツリと切れたんだ。 「…何で俺に聞くんだ?」 『よく見えるだろ。席、近いし』 気のせいか“よく見てるだろ”にも聞こえてどうにもばつが悪い。 さすがにあの夜までは知らないだろうけど。 「まあ大丈夫なんじゃないの? …で、用件は何」 『ああ、それそれ』 無理矢理話を逸らすと、またフンと鼻で笑われた。
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