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「ねえ、こっちも食べてみて。
この店のは最高なんだから」
「えー、イカスミ苦手なんですよぉ。見た目がグロいし磯臭いし」
小椋さんは真っ黒なイカスミリゾットを見て顔をしかめた。
「まあまあ、騙されたと思って」
小椋さんのお皿に取り分けながら、なんだかナニワ商人みたいな自分が笑えてくる。
だけど人は空腹だと短気になるって言うし、本題に入る前に小椋さんの胃袋を満タンにしておかなければ。
「イカスミ系は口が黒くなるから男受けしないんですよねー。
……うっそ、ウマっ!」
「でしょー?上海でこの味がどれだけ恋しかったか」
「片桐王子とどっちが?」
「同じぐらいかしらね」
以前はムカついた質問にも機嫌よく答えると、おかわりをしていた小椋さんが手を止めて私の顔をじっと見てきた。
「先輩、最近何かありました?」
「なんで?」
「だってなんか不気味に優しいし、年増のわりに肌ツヤツヤだし」
「不気味と年増は余計よ」
お肌ツヤツヤ……。
頬を撫でながら困惑する。
年甲斐もなくホルモン分泌まで盛んになった色ボケ丸出し状態を見抜かれては、カミングアウトの爆発がさらに心配になってきた。
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