上海の夜

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「真面目で、優しすぎて、ヘタレてて」 声は目の前まで来た。 窓から差し込む薄明かりに美紀の顔がうっすらと見える。 その頬は濡れていた。 「ほんと、顔だけ王子なんだから」 肩に手が置かれたかと思うと、柔らかな感触が頬にそっと触れ、一瞬で離れた。 「さよなら、怜」 バタンと閉まったドアを見つめたまま、手に押し込まれたカードキーを握り締める。 “昔の女に隙見せちゃ駄目よ” 閉まり際に言われた一言に苦笑いする。 数日前に帰りの便を変えていたなら、最初から美紀は分かっていたのだろう。 もう昔には戻れないけれど、あの頃僕が憧れたまま──いやそれ以上に、最後まで彼女は凛々しく美しかった。
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